ここで触れる短焦点望遠鏡とは、焦点距離が400~600mm程度、F値が6より明るい望遠鏡鏡筒、望遠レンズのような光学系を指しています。撮影方法としては天体写真によくある直焦点撮影とほとんど同じ要領です。人工衛星の撮影でここまで拡大して狙うことは極めて異例なことなのですが、FITSATのLEDは1秒より短い間隔で点滅するため、望遠効果を使って点滅パターンの軌跡を記録する上で有効です。
ここでは、短焦点望遠鏡とデジタル一眼レフカメラを組み合わせ、どうすればFITSATをとらえることができるか紹介します。
FITSATは2~3分を駆けて夜空を横切っていきます。このため、FITSATは400mmでは4~6秒、600mmでは2~3秒で写野(フルサイズセンサーと過程)を駆け抜けていきます。右の図は400mmの写野とFITSATの1秒おきの位置をプロットしたものですが、FITSATが写野の中をいかに高速で横切っていくかおわかりいただけるかと思います。
予想されるFITSATの明るさは7~8等級。移動する暗い光点をとらえなければならないため、カメラの感度はISO6400以上、光学系のF値は4以上の明るさを持っていることが理想です。
FITSATは月明かりのない夜に発光実験の計画が組まれることになっています。撮影も夜空ができるだけ暗い場所で取り組んでいただいた方がよいでしょう。
400~600mmの焦点距離ともなると、計算した衛星の飛行経路の精度や、カメラのフレーミングの精度が1度ズレてしまっただけでも観測の失敗につながります。「「Heavensat」を使ってFITSAT-1の軌道を調べる」を参考に、できるだけ新しいTLE(軌道要素)を入手し、精度が信頼できる人工衛星軌道計算ソフトウェアで観測予定地から見たFITSATの飛行経路を算出してください。
また、FITSATが通過する経路上に、カメラの写野をぴたりと一致させる事も非常に重要です。カメラ三脚では繊細な位置調整がしにくいものもあるため、微動での位置調整が可能な望遠鏡架台に同架させることが理想です。
日本上空付近では、FITSATは地表に対してLED発光面を45度上方に傾けるような姿勢で通過していきます。このため、原理的には真南の空、仰角45度付近をFITSATが通過したとき、LED発光面が観測者の正面を向き、最も効率よくLED発光を見ることができるということになります。
また、最も観測地に近づく際に大気による減衰が最も少なくなるので、仰角が高いほど明るく見えるということにもなります。したがって、原理的には南方向で仰角が30度ぐらいから天頂付近を通過するあたりが、FITSATを効率よく明るくとらえる可能性が高いポイントと言えます。
飛行経路上でこのポイントに近い位置を意識して、フレーミングする場所を決定するとよいでしょう。
FITSATは7~8等級と暗いため、記録される光跡も非常にかすかなものとなります。恒星追尾をしていない場合、数秒の露出で星が線状に写るため、淡いFITSATの光跡と重なって見いだしにくくしてしまう可能性があります。赤道儀のような恒星追尾が可能な架台が利用できる場合は、積極的に利用いただくことをお薦めします。